企画力を上げる冒険
に出るならこちら

冒険に出る

2015.10.22

【企画人:B面】大給近憲さん(株式会社光文社 Mart編集長)/「発想の源はすべて読者にある」

 

【インタビュー「企画人」 】
「企画人」は自由だ。働き方も自由だ。理想と現実のギャップを埋めるチカラ、「企画力」があれば、仕事も、はたらきカタも、プライベートも、人生はもっと自由にデザインできる。多様な企画力を駆使してその人らしい生き方を実現している先人たちを訪ね、「A面:生き方・働き方」「B面:企画のポイント」をテーマに話を聞く。

 

Mart編集長、大給近憲さんとMart看板の写真

 

今回の「企画人」は、株式会社光文社で生活情報誌『Mart』の編集長を務める大給近憲さん。柔軟剤のダウニー、高級鍋のル・クルーゼから、桃屋の食べるラー油まで、主婦が起点となった数々のブームを巻き起こしてきた仕掛け人、その人だ。これほどまでに次々とヒットを生み出すその背景には、いったいどんな“大給メソッド”があるの? そしてその思考は、どのような過程で培われてきたものなのかーー?

 

※記事は【A面—生き方・働き方】と【B面—企画のポイント】の2回に分けてお届けします。本記事は【B面】です。

 

『Mart』の原点。よい企画は「受け入れる」ことから始まる

Mart編集長、大給近憲さんの写真

 

Q. 【A面】では、「主婦のリアル」を追求したことが雑誌『Mart』の創刊に結びついたというストーリーを伺いました。

 

読者のリアルを「受け入れた」ときに、雑誌は作れるのか?というのが、『Mart』の原点。というのも、プロって案外この「受け入れる」ということができないんですよ。

 

例えば主婦を顧客にするスーパーのバイヤーさんの場合、普通に主婦の話を聞いているだろうと思うじゃない? でも実際は、「奥さんもういいから」って、話をさえぎる人もいるとか。ここからはプロの畑ですからと。「とりあえず聞いて、一度受け入れてから考えればいいじゃない?」と思ってしまうのは編集者だからかな。

 

編集やってても、ある意味同じ。キャリアを積むうちに、様式化して、はみ出る異分子を拒絶して。でも、自分の型だけにこだわっている人は、本当のプロフェッショナルなんでしょうか。まずは読者や消費者の「リアル」を受け入れることが、よい企画の始まりだと思うんです。

 

発想の源はすべて読者にある

雑談をする女性たち

 

Q.『Mart』ではダウニーや食べるラー油など数々のブームを巻き起こしてきましたが、ブームの種はどうやって見つけるのでしょう?

 

『Mart』編集部の立ち位置は、読者の話をもとに情報を取捨選択し、時代のスパイスをかけて企画をつくること。その発想の源は全部読者にあるんです。「読者に先行して企画を立てる」よりも、「ヒントの源は必ず読者にある」という考え。“後追い”企画はNGと考える人もいるようですが、それの何がいけないんだろう?って(笑)。

 

今はスタイルをつくってそれに合わせてもらうというより、こちらから歩み寄っていく時代。消費者や読者と向き合うことのほうが大事です。向き合った結果として半歩先になることはあるかもしれない。でも、必ずそうでなければという強迫観念はいらないと思うんです。

 

骨格を決めてから聞くのではなく、骨格すら聞いてしまう

Mart特集ページの写真

左が予告ページで、右が実際に発刊された号。『Mart』では会員の反応次第で、前号の予告から企画の骨格自体を変更することもあるという。

 

Q.『Mart』でも、読者会員と向き合った誌面づくりが行われていますよね。

 

僕らは次の雑誌が出る前に、会員3万人全員に、次々号予告を送ってしまいます。競合にバレちゃうよという人もいますが、知ったこっちゃない(笑)。大切なのは読者の反応を見て、その企画が本当に求められているのかを検証すること。

 

例えば「全国読者に聞く、今流行っていること」を特集にしようと思って予告を投げたら、会員から「べつに今流行っているものを全国に聞かなくていいです」という反応が返ってきて。

 

最終的には「『本当にみんな素足に靴履いてるの?』とか『シャツって中に入れてるの?』という夏ファッションの実際のほうがこの時期は関心あります!」と言われて、企画自体が前号の予告から変わっちゃったわけですよ。

 

会員システムをもっている組織は多いかもしれないけれど、そのほとんどが、補佐的な役割でヒアリングしているところもあると思う。骨格は内部で決めて、その肉付けのためだけに会員に話を聞くというか。でも『Mart』では、骨格が確定する前に読者と向きあい、ダメなら骨格から変えます。せっかく理解者がいるなら、その人たちと向き合って企画することが、もっと前向きに受け入れられてもいいんじゃないかなと思うんだよね。

 

Whatじゃなくて、Howの時代

Whatの時代からHowの時代へをあらわすイラスト

 

Q.読者や消費者に寄り添うというのが、少しずつわかってきたような気がします。

 

雑誌も、今はエッジのきいた雑誌は少なくなり、寄り添う雑誌にならざるをえない時代。かつては新ブランドを入れたり、ニュースを入れることで売れた時代もあったけれど、今はそれじゃ売れなくて。「あの人いいねって言われる理由」とか「私たち黒が好きなんです」とか、読者の気持ちに寄り添うものが求められている。

 

つまり、新しいものをつくれば売れるのではなく、どう向き合っているのかが問われている。What じゃなくて Howの時代ですよね。そしてHowは、相手に寄り添っていないとわからない。AさんにとってのHowと、BさんにとってのHowは違うんです。

 

企画を考える人は、ここにもう少し踏み込んでもらえたらと。企画というと「新規性」を重視しがちだけれど、本当は受け手側の捉え方次第で、商品の価値も変わってくるんです。

 

「どこの誰のもののため?」を明確にできているか

Mart編集長、大給近憲さんの写真

 

Q.大給さんにとって、企画とは?

 

ニーズがあって、そのニーズに自分の発想がどれだけ寄り添えるか。独創性より必要性。そしてそのニーズを、どこまで明確化できているか。「どこの誰のもののため?」か、自分の中で納得できているかが、企画を進めるうえで一番大事なところかなと思います。今でも悩みながらですが。

 

あなたのため、と言いながら、実は独りよがりな企画にならないことですね。そうではなくて、相手のニーズに寄り添って、自分が何を求められているのかを本当に考えるところから、よい企画は生まれていくような気がします。

 

おわりに

 

以上、今回の「企画人」は株式会社光文社 『Mart』編集長の大給近憲さんにお話を伺いました。

 

もうとにかく、話が次々とあふれ出す、あふれ出す。日頃から主婦の話をひたすらに聞いているという大給さんの頭の中は、興味深いエピソードの宝庫でした。

 

話はときに、哲学的な展開に。言葉だけではなく、本当に「どう向き合うか」「リアルは何か」について思考を掘り下げ、追求し続けていらっしゃるのだなと、肌で感じる3時間でした。

 

今回ご紹介しきれなかった“大給節”も、ぜひまたの機会に。

 

この記事の筆者

なべこ

なべこ

日本でPR会社勤務を経てフィジー留学、オーストラリアで日本語フリーペーパー編集部でのライター、田舎での農場遊牧生活などを経て帰国。現在はライティングや広報まわりのいろいろをナリワイとさせていただきながら、湘南界隈を拠点にゆるゆると生息中。