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「よいもの=高い」エシカル選択の壁とZ世代の心を動かすコミュニケーションとは

深刻化する環境問題のために生活者にできること、としてあげられることが多い「エシカル消費」。「エシカル消費」としてよいものを購入したいと思っていても、実際には価格や選択の難しさなどで壁があります。環境問題を身近にとらえている人ですら、日常でエシカルな商品を選択し続けることが難しいと感じている人も少なくありません。 今回は、昨年11月開催されたMoFF2024での「食の未来を考えるトークショー」での対談の内容から、環境問題に取り組んでいるZ世代や企業がエシカル消費についてどう捉えているのか、心を動かすコミュニケーションの鍵は何なのか、課題と可能性を探っていきます。 エシカル消費とは? 消費者それぞれが各々にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うことです。 ※参照:https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/public_awareness/ethical/about

世界の消費者の6割がエシカル消費を意識、対して日本の認知度はわずか3割。

弊社作成:日本人を対象にした消費生活意識調査「エシカル消費(倫理的消費)」を知っているか

英調査会社のユーロモニターが調査している世界の「2025年の世界の消費トレンド」では、世界の消費者の63%がサステナブルな消費を意識しているということがわかりました。それに対して、2024年に日本人を対象にした消費生活意識調査では、「エシカル消費(倫理的消費)」を知っているかという質問に対して、知っていると回答した人(「言葉と内容の両方を知っている」又は「言葉は知っているが内容は知らない」と回答した人)の割合は、わずか27%となっており、「エシカル消費」への認知度は高くないことが明らかになりました。

世界と比較をすると、日本のエシカル、サステナブルな消費に対しての意識は低い傾向にあるといえるかもしれません。

では、エシカル消費を認知していても取り組んでいない人には、どのような要因があるのでしょうか。

参照:「2025年の世界の消費トレンド」:ユーロモニター
https://go.euromonitor.com/white-paper-2025-global-consumer-trends.html

参照:「令和6年度第3回消費生活意識調査結果について 」:消費者庁
https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_research_cms201_241107_01.pdf

エシカル消費に取り組んでいない理由は、選択の難しさと経済的な余裕のなさ

同じ消費生活意識調査では、「エシカル消費に取り組んでいない」理由についての質問に対しては、「どれがエシカル消費につながる商品やサービスか分からない(23.0%)」、 「経済的余裕がない(20.1%)」と回答した方が世代を問わず多く、エシカル消費に踏み出せない主な要因となっています。

参照:「令和6年度第3回消費生活意識調査結果について 」:消費者庁
https://www.caa.go.jp/notice/assets/consumer_research_cms201_241107_01.pdf

「よいもの」とわかっていても手がのびないと感じる、エシカルな選択の壁。

MoFF2024での「食の未来を考えるトークショー」にて話すovgo Baker 高木さん

では、環境問題についても取り組んでいるZ世代や企業の方は、日々の暮らしの中でどのような視点で商品やサービスを選択をしているのでしょうか。

carutena 塩谷さん
carutena 塩谷さん
私自身は、サステナブルな商品を購入することは地球に住まわせてもらっている税金を払うようなものだと考えています。だから、個人的には多少高くなるのは仕方ないというスタンスですが、普及するためには手の届きやすい価格という視点は大切だと思いますね。価格については、企業がいかに搾取しないで下げられるかという努力も必要ですが、価格が少し高くても地球に貢献できる選択をすることがカッコイイという文化になったらいいなと思っています。そういう世界観をつくっていくことが私たちが目指しているところです。
ovgo Baker 高木さん
ovgo Baker 高木さん
私自身は、サステナブルな商品を購入することは地球に住まわせてもらっている税金を払うようなものだと考えています。だから、個人的には多少高くなるのは仕方ないというスタンスですが、普及するためには手の届きやすい価格という視点は大切だと思いますね。価格については、企業がいかに搾取しないで下げられるかという努力も必要ですが、価格が少し高くても地球に貢献できる選択をすることがカッコイイという文化になったらいいなと思っています。そういう世界観をつくっていくことが私たちが目指しているところです。
mepple 内田さん
mepple 内田さん
私は、現状では正直、野菜に毎日高い金額を払うことは難しいですね。まずは自分ができる無理のない選択をしていくところからみんながひとつずつ始められたら十分だと思います。

環境に対する改善は、短期的な取組ではできませんし、自分たちを含めて長期間かけて日々続けられるようになっていくのがいいのかなと思います。

iCREATE 粟田さん
iCREATE 粟田さん
私たちは会社として、無化学肥料、無農薬で野菜を育てていく講座、コミュニティづくりをやっていますが、野菜を単純に売るとなると全くコストに見合わないものとなります。野菜づくりに限らず、丁寧に手間をかけて取り組むものは、そこに至るまでの過程やそれを行う意味などコンセプト、ストーリーを含めて付加価値であることを消費者に理解してもらうことも大切になるのではないかと思います。

 

現状としては、「なかなか日常のライフスタイルでエシカルな基準で選択できないが、エシカルな選択をしたい」という意識を持っている人は多いはず。
エシカルな取り組みや、商品やサービスを提供している企業や団体としても今後、少し高くても選んでもらえるための取り組みや工夫が必要になってきますね。

では、どのようなものなら選びたくなるのか。特にエシカルなことへの意識が高いといわれるZ世代の心を動かすコミュニケーションとは、どのようなものか聞いてみました。

 

人に紹介したい、人にあげたいという意識が強いZ世代

写真左)塩谷さん提供:ovgo Baker さんでのカフェの様子、写真中央)塩谷さん提供:タンブラーを無料でレンタルできるカフェ、写真右)塩谷さん提供:古道具のお店で友人と食器を買い物

Z世代の消費の特徴の1つとして、自分にお金をかけるよりも、人にプレゼントをする、誰かと一緒に楽しむことにお金をかけるという傾向があるようです。これはZ世代に選ばれるコミュニケーションを考えるヒントとなりますね。

carutena 塩谷さん
carutena 塩谷さん
私の周りの学生も、エシカルな消費がしたいという気持ちはあるが、できてないという子も多いです。でも、私は友人とovgoさんのカフェに行ったりビーガンカフェ、ビーガン居酒屋に行ったりなど、友人と食事をする際に選ぶ場所を意識しています。

安価な居酒屋で、3次会くらいまで過ごした時の金額と、エシカルな選択ができるお店に1回行く金額は、 さほど変わらないと思っています。

NAMIMATI 佐々木さん
NAMIMATI 佐々木さん
私は最近、友達のプレゼントにエシカルな商品を買うということにハマっています。自分に対しては、安価なものを購入したりもしてしまいますが、友達へのプレゼントであれば、少し高価なものでも喜んでくれるかと思って選択をすることができています。自分ではなかなか手が出せないですが、貰ったら嬉しいですよね。

このように今後は人に紹介したい、人にあげたいという意識が強いZ世代の特徴をとらえたコミュニケーションにヒントがありそうです。

 

「楽しそうな雰囲気」「写真に撮りたくなる」が心を動かす

ovgo Bakerさん提供

NAMIMATI 佐々木さん
NAMIMATI 佐々木さん
実体験でもありますが、正しいことをやっているとただ伝えるようなコミュニケーションだと、少しくらいイメージや怖いというネガティブなイメージを持ってしまいますが、明るくて楽しい雰囲気づくりができると、入り込みやすくなるので、興味がない人でも行ってみたいと思えるようになると思います。
ovgo Baker 高木さん
ovgo Baker 高木さん
来てくださるみなさんが、思わず写真を撮りたくなる、選びたくなるような「義務的理由」ではない選ばれるサービス、プロダクトづくりが重要だなと思います。

 

人に紹介したい、プレゼントしたいZ世代に響くのは、正しさよりも楽しさ、そして写真に撮って紹介したくなるような雰囲気のようです。

このように、「良いこと」を押し付けるのではなく、「真似してみたい」「私も行ってみたい」というような雰囲気づくりができるようなポジティブなコミュニケーションがポイントになりそうです。

さらに、Z世代は日常でどのような意識、タイミングで選択をしているのでしょうか。この行動傾向を理解することも、Z世代に選ばれるサービスづくりのヒントとなりますね。

 

暮らしのなかで「消費する」から「つくる」へ行動をシフトする

Z世代の中には、高い金額を払って消費する行動から、自ら手を動かして「つくる」行動を選択する人も増えているようです。そして、その「つくる」行動は、一番身近な「食」に対してあらわれてきており、静かに広がっている模様です。

mepple 内田さん
mepple 内田さん
サステナブルやエシカルを意識した商品の選択はハードルが高いことだと思います。 私はサステナブルなプロダクトをつくる会社に所属してるので、かわいいとか、おいしいとかおしゃれなどで選んでもらえるので、そもそも商品自体、いいものを作ることが大事だと思っています。
mayunowa 松岡さん
mayunowa 松岡さん
今はすべてにサステナブルな選択をできているわけではないですが、有機の畑を始めて自分でつくったものを自分で食べる、ということを経験をしたことで、有機野菜の高価な価格もすごく理解できました。今では自分でも、食べものを意識して買っています。

このように、まずは、1日3食選択をする機会がある「食」から自分でつくってみる生活をしてみると、少し高価なものであっても、真のコストを理解した選択ができるかもしれませんね。

 

実際に、アイクリエイトの粟田さんが運営するPlannersでは、「1億総スモールファーマー化プロジェクト」を実施し、誰もが少しでも自分で食べものをつくる生活をすることから、生活者の行動変容を促していくという取り組みをしています。

エシカルな消費を日本全体で進めていくためには、ポジティブに伝えていくコミュニケーションをしつつも、真のコストを分かってもらえるような体験をしてもらうことがポイントになりそうです。

 

執筆:藤井るな
編集:林美代子

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