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2020年10月12日

イタリアの食科学大学を卒業した松井詩乃さんに聞く。海外で「食」について学ぶ中で気付いた、食品ロス削減とは?

10/16は世界食料デー。国連が定めた、「世界の飢餓や栄養不足と、その解決策について考える日」です。この機会に皆さんも、食や食品ロス削減、飢餓ゼロについて考えてみませんか?

今回は、イタリア・ピエモンテ州のポレンツォにある「食科学大学(The University of Gastronomic Sciences)」をご卒業された、松井詩乃さんにお話を伺いました。

丁寧に育てられた食材を大切に使いながら、伝統的な食文化を見直し、食への関心を高める運動を行っている スローフード協会のイニシアチヴのもとに開設され、「スローフード大学」とも通称される食科学大学。

在学中に、日本の食品ロス問題について研究し、論文も発表しており、国連WFP世界食料デーキャンペーン2020「ゼロハンガーチャレンジ~食品ロス×飢餓ゼロ~」のアンバサダーとしてもご活躍されている松井さんから、イタリアでの活動や、食品ロスについて思うこと、アクションを起こしはじめたきっかけなどを伺いました。

“食は全てにつながっている” ことに気付いてから見えてきた、食のおもしろさ

ー「食」について学ぼうと思ったきっかけを教えてください。

松井:ニュージーランドに留学していた高校時代に、友人から「今まで自分が一番お金や時間を費やしたものが、自分が一番好きなものなんだって!」という話を聞いたんです。 元々食べることが、普通の人より好きだったし、作ることも好きだったので、そのときに「食」が自分にとって、大切なものだということを実感して、もっと学びたいなと思いました。


ニュージーランドでは3年間、受講した食品技術(Food Technology)の授業の影響は大きかったです。 家庭科のように、みんなで料理をして食べるような内容を想像していたのですが、いわゆる家庭科の授業の域を越えていたんです。一番最初に学んだのは、食品の衛生管理。食中毒の危険について学んだり、使う食材や順番によってどんなことに気をつけなければならないか考えたり。


同じ学校の吹奏楽部向けのケータリングををつくるプロジェクトもありました。ただメニューを考えるだけでなく、ステークホルダーを意識しながら、事前に彼らにどんな要望があるのかヒアリングして、決めていくんです。他にも、近くのカフェやレストランに向けて、エリアの特長や住民のニーズを読み解きながら、新メニューの提案なども行ったり。そのときに、グルテンフリーやベジタリアンという食の選択についても学びました。かなり実践的な授業でしたね。


他にも、環境科学(Environmental Science)の授業も受講していて、そのときサステナビリティについても学びました。食と動物や環境の関係など、これらの授業を通して、初めて、「食」は作って食べるだけじゃない。他にも、経営、法律、環境、教育などありとあらゆるものに繋がりがあるんだって気付いて、興味がわいてきました。 この授業を通して、将来「食」に関する仕事に就きたいという目標も見えてきた気がします。

失敗しても、いい。目の前のチャンスは逃したくない

ー食科学大学への留学を決めたきっかけや、イタリアに渡るまでの流れを教えてください。

松井:ニュージーランドで高校を卒業した後に、日本へ戻って同志社大学商学部へ入学しました。在学中に、自分のやりたいことが全然できていない現状に気付いて、他の道があるかも!と思ったのですが、日本で私のしたいことを勉強できるような場所がなかった。食に関する勉強ってなると、ほとんど栄養士になるとか、調理師になるとかばかりだったんです。

でも、英語が話せるし、海外だったら、私が求めていた「食」を活かしたビジネスを学ぶ選択肢があるかも!と思って、googleで「Food University」とひたすら検索するようになりました。そんな中で食科学大学の存在を知って。カリキュラムを見たら「これ!ここしかない!私のしたいことが全部詰まっている場所!」って。衝撃でしたね。それから2年の途中で休学して、食科学大学を受験しました。合格してから、同志社大学を退学して、イタリアに渡りました。


ー日本で受験されたんですね!受験内容はどんな内容だったのですか?やはり日本の大学とはちょっと違うんでしょうか?

松井:書類選考と、モチベーションをはかるアンケートの回答、食に関するエッセイの提出、オンライン面接がありました。「食」に対しての関心の高さを見られているような選考内容でしたね。

イタリアに行きたい!というよりは、私の学びたいことができる大学がイタリアだったから受験した、っていう感じですね。もし、この大学が他の国にあったとしても、受験していたと思います。

ー「食」に特化した大学って、世界中を探してもなかなかなくて、ユニークですもんね。食科学大学では、どんな授業を受けていたんですか?

松井: 「食」に関する大学なのですが、実は調理はほとんどしないんです。 食科学大学というくらいなので、科学的要素ばかりと思われるかもしれませんが、その他にも、哲学、経営学、歴史など、多くの専門分野も学びました。 例えば、歴史といっても本当に細分化されていて、食そのもの歴史、ワインの歴史、世界の歴史、レシピの歴史など本当に様々。テイスティングして、しっかりと言語化して表現したりとか。

スローフード協会が作った大学というだけあって、どんな授業にも素材そのものや生産者さんへの感謝など、スローフードの考え方が根底にありました。 色んなヒトと繋がることができたので、プライベートでも食に関する活動をしていました。

ープライベートではどんな活動をされていたんですか? 松井:学校外では、食科学大学の卒業生の方の会社のお手伝いで、外国人のシェフが日本で研修旅行するときや、日本人のシェフがイタリアにいらっしゃったときに引率や通訳をしたり。

他にも、日本美食クラブ(Japanese Gastronomic Club)を立ち上げて、ロンドンからシェフを招いてお寿司のワークショップや、日本の教授を招いて在来野菜についての講義を企画したりもしました。1から自分で企画して、実行するのは大変でしたが、日本人ならではの価値観で、日本とイタリアの食や文化を知っている自分だからこそ、他国の人々に伝えられることが沢山あると思ったんです。

まだ学生だし、失敗してもいい。やりたいことを思いっきりできる今があるし、チャンスがあるならそれを逃したくないという気持ちの方が大きかったですね。はじめてから、大変すぎて後悔することもありますが、やってみると意外となんとかなるので、とりあえずやってみよう!という感じでした。

最近では、イタリアでの食生活について発信するYoutubeを開設したので、よかったらぜひご覧になってください!

松井さんのYoutubeはこちら

サステナブルな考えを持つ人が多い日本で、食品ロスが多いのはなぜ?疑問から生まれた研究テーマ

ー松井さんは、在学中に「日本での食品ロス」についての論文も発表されていますが、そのテーマを選んだきっかけを教えてください。

松井: イタリア人の友人が結構もったいないことをしていて。例えば、ベジブロスをとるときに、使用した野菜は食べずに捨ててしまうとか。出汁はもう出ているので、その野菜は役割を果たしたし、もういらないって感覚のようです。それが信じられなくて、「なんで捨てちゃうの?もったいない!」って伝えたいと思ったときに、「もったいない」という言葉って英語で直訳するのが難しいくらい、日本人独特の考え方なんだと気付きました。

もともと日本人はモノを大切にするサステナブルな考え方を持っているはずなのに、何でこんなに食品ロスが多いんだろう?もしかして、もったいないという考え方や感情を持っているヒトが少ないのかも?という疑問が生まれました。その原因が分かったら、食品ロスを削減する糸口になるんじゃないかと思って、調査することにしたんです。

ー論文を書いてみて気付いたことがあれば、教えてください。

松井: 論文を執筆するにあたり、日本人を対象にアンケートをとったのですが、その結果として見えてきたのは、「もったいない、という考えを想像以上に多くの人が持っていた」ということ。

でも、実際に食品ロスを削減する具体的な方法を知らなかったり、食品ロスに関することや環境問題を広めている団体やメディアによる、強要されているような表現に対して嫌悪感を感じるヒトが多い、ということでした。

また好意的ではあるけれど、何かアクションを起こすまでの時間やモチベーションがない、という理由で、興味はあるけれど、行動に移せないヒトが多いということも見えてきて。

そういうヒトたちへのアプローチ方法に気をつける必要があると実感しました。楽しみながら知ったり、取り組みたいと思ってもらえるように。誰もが親しみやすい方法で、ライトな層への伝えていけるようにしたいなと思い、YoutubeやSNSで発信することにしました。

小さいことでもみんなが始めたら、それは大きなインパクトになると思うので、これからも少しずつ発信していけたらと思っています。

ーイタリアと日本の食ロスに対する意識や活動について思うことがあれば教えてください。

松井: 食品ロスについて発信していたりアクションを起こしているヒトはそんなにいないかもしれませんね。どちらかというと、みんな食と環境のつながりに対する関心の方が高いと思います。私の周りの人はやっぱり食に対する意識が高いヒトが多いので、環境問題に敏感な人が多い気がしますが、国全体で見ると、日本の方が食品ロス削減に対するプロジェクトは多いと思います。

日本人の「もったいない」って、申し訳ない気持ちとか罪悪感みたいなものも含まれていますよね。その素材や料理そのものへの思い、作ってくれた生産者さんやシェフ、家族への思い。根底には感謝の気持ちもあると思いますし。

ー確かに、日本人の「もったいない」には沢山の意味が含まれていますね。その分、食品ロス削減に取り組もうという方ももっと増えていくといいなと思います。松井さんご本人がしている食品ロス削減に繋がるアクションはありますか?

松井:買い物は家にあるものをチェックしてから、本当に必要なものだけ購入するように心がけています。あとは、その日に使いきれなかったり食べきれなかったりしたものは、冷凍したり、冷蔵して次の日に食べたりする、人参の皮はきれいに洗って剥かずに皮まで食べる、お菓子づくりで余った生クリームはマフィンやアイスにする、など。

一番おすすめなのが、みそ汁!半端に余ってしまったり、だめになりそうな野菜は、とりあえずみそ汁に入れています。何でも受け入れてくれる万能メニューです。ぜひやってみてください!

ー今後チャレンジしていきたいことはありますか?

松井:卒業したばかりなので、いま絶賛考え中です。大学でも幅広い分野を勉強してきたので、マーケティングにも興味があるし、イタリアで素敵な食材に沢山出会ったので、日本で紹介するのも楽しそうだなと思います。 ヒトに伝えたり、説明するのが好きなので、教育の分野にも興味があります。「食」はおいしいだけではなく、もっと奥深くて面白いのだということを沢山の方に知ってほしいですね。

食品ロスの削減に関しても、少しずつ発信していけたらと思っています。 今回は国連WFP世界食料デーキャンペーン2020「ゼロハンガーチャレンジ~食品ロス×飢餓ゼロ~」のアンバサダーになったことで、発信の機会も増えました。

私の投稿を見て、国連WFPのゼロハンガーチャレンジに参加してくれた知人がいたんですよ!それがすごく嬉しくて。発信を見て、少しずつでも知ったり、アクションを起こしたいと思ってくれるヒトが増えるといいなと思っています。

おわりに

「一人ひとりの小さなステップが、バタフライ効果で広がっていく」

松井さんの論文は、こう締めくくられています。 イタリアの大学では学部生唯一の日本人であり、アジア人であったということで、文化や価値観の違いに戸惑うことも多かったという松井さん。 馴染みのない場所で新たに1からはじめること、自分のアクションについて発信しつづけることはとても勇気がいることです。

でも、自分がやりたいことをとことん突き詰めたいという強い思いがあり、日本人ならでは価値観で、日本やイタリアの文化や食について理解している彼女だからこそできることできるアクションや価値がたくさんあると思います。

皆さんもこの機会に、まずは知ること、そして自分ができることから少しずつ、取り組んでみませんか?

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9月1日から始まった国連WFPの「ゼロハンガーチャレンジ 食品ロス✖️飢餓ゼロ」。

「食品ロスゼロアクション」をSNSに投稿する(※)と1投稿につき120円(約4人分)の給食支援が行われます。 皆さんもぜひご参加ください。

※3つのタグ「#食品ロスゼロアクション」「#ゼロハンガー 2020」「#国連WFP」をつけてInstagram、Twitter、Facebook、YouTubeに投稿。詳細はコチラより ライター 小池彩乃
学生時代にニュージーランド、ノルウェーでの留学を経験。サステイナブルに興味を持つ。早稲田大学卒業後、外資系通販企業にてEC企画・マーケティングを経験。いまは株式会社アイクリエイトにてPR、SNS運営、ライター業務などを担当している。