2020年10月16日
人気飲食店を数多く運営、プロデュースする車田篤さんに聞く。生産者やお客様とのサステナブルな関係の築き方とは?
コロナ禍のいま、さまざまな困難に立ち向かっている飲食店。
継続的な経営をしていくためには、今まで以上に、生産者との良好な関係や、お客様から愛されることが必要になってくるのではないでしょうか。
今回は、原宿、代々木エリアを中心に、日本中でカフェやレストランのの運営、プロデュースを手がけている、車田 篤(くるまた あつし)さん
@atsushi_kurumataに話を伺ってみました。
1年の1/3を海外で過ごし、旅・食・街・人・自然からモノとコトをインプットし、それらを自分のフィルターを通し様々な方法で表現している車田さん。
車田さんならではの世界観でアウトプットされる食やブランドは、海外からの観光客をはじめ、老若男女に愛されています。
話題のお店を次々と展開している車田さんから、食材へのこだわりや、生産者やお客様との関係の築き方、ヴィーガン商品の販売などについて伺いました。
ー車田さんの商品は、どれも食材へのこだわりが感じられます。食材を選ぶときには、どんなことにこだわっていらっしゃいますか?
車田:大前提として、「おいしいかどうか」を一番大事にしています。
あとは、「安定供給」が可能かどうか。
物によっては、限られた時期しか入らないものや、希少なものもあるので、限定的なメニューとしてだすこともありますが、やっぱりお店としては常においしいものを安定して届けていきたいという気持ちがあります。
こだわって生産されている食材は少し高くなってしまうけれど、そこに見合った商品をつくることができれば、お客様はお金を払ってくださるので、そこを常に意識しています。
僕たちの店を選んでくれたお客様のお金をお預かりして、こだわりを持ってがんばってくれている生産者さんや食材を取り扱っている問屋さんに、お金を流す、「意味のある循環」を心がけています。
僕たちの店は、外国人の方や観光客の方、若年層の方が沢山きてくださるのが強みです。
その強みを活かして、皆さんに堅苦しくなく、ポップに、こだわりの食材を食べてもらいたい。
リッチで敷居が高いお店より、カジュアルな場所の方が一度きりにならず、通ってもらえるような気がしています。
都心でやっている会社、飲食店として、その食材を使うことによって、こだわって生産された食材のバックグラウンドを知ってもらう機会をつくっていけたらと思っています。
ーこだわりの食材に出会うキッカケはありますか?
車田:
例えば、地方でプロデュース業をするときは、まずどの食材を使おうか?という話になります。
そこで地元の方に八百屋さんをご紹介いただいたり、畑に直接出向いて、農家さんとお会いしたり。
地方で見つけたり、食べた食材でおいしいものに出会ったら、これを作っている人は誰なんだろう?と聞いてみたり、探したりして、繋がることもありますよ。
こだわりを持ってつくっていらっしゃるところは、生産数が限られていることも多いので、ご迷惑をおかけしないように、双方が納得した上で、選ばせていただいています。
自分達の出来る範囲で無理なく、少し背伸びをしたりする部分はあるかもしれないけれど、なるべくお互い無理なくやっていくことが継続に繋がると思います。
支援ではなく、お互いの相乗効果を目指して。継続してビジネスが成り立つ取り組みがしたい
ーいつも売り切れてしまうほど大人気の「放し飼い有性卵のカスタードプリン」は卵にこだわられていると伺いました。生産者さんとはどのように繋がられたんですか?
車田:
プリンは、THE GREAT BURGER、GOOD TOWN BAKEHOUSE、The Little BAKERY Tokyoで提供しています。サイズも大きめで、食べ応えも抜群なので、おすすめです。
卵は、北海道・厚真町の小林農園さんから産みたての放し飼い卵を使っています。
自分でインターネットで放し飼いで育てているところを探して、Webサイトを拝見して、共感できる要素が多かったので、直接電話して交渉しました。
ニワトリが大好きで、大切にされていることがとても伝わる生産者さんなんです。
厚真町は、北海道胆振東部地震で、大きな影響を受けた震源地。そのときに、小林さんのお家や農園も潰れてしまって、鶏もいなくなってしまって。小林さんの命も危なくヘリコプターで救出された程だったそうで…
仮設住宅や色んな協力もあり、少し離れたところで農園を復活されたのですが、その裏では、僕らが想像できないくらい壮絶な経験をされたと思うんです。
金銭的なダメージはもちろんですが、自分がかわいがっていた大切なニワトリたちを助けることもできず、別れることになってしまった心残りや、悲しみなど、精神的にも沢山の困難を乗り越えて、がんばっていらっしゃる。
東京で飲食店をやっている身としてできることは、その卵を沢山使わせてもらって、みんなに知ってもらって、もっと売れるようにしていくことだと思います。
募金のプロジェクトなどを行って支援することも難しくはないですが、彼らも僕らも商売をしているので、その商売に繋がることを継続的にしていきたい。
仕事を通じて、できる支援は無限にあると感じています。自分たちのできることから、1つでも多く取り組んで、一緒に取り組む中で相乗効果を生み出していきたいです。
“絶対おいしい”が最低条件。使える素材が限られていても、妥協しないヴィーガンフードを提供したい
ーこだわりの食材をたくさんのヒトに届けるために、ヴィーガンブレッドやドーナツの販売もしていると伺いました。「ヴィーガン」という食を取り入れはじめたきっかけを教えてください。
ヴィーガンについては、こちらでもご紹介しています。
車田:
実は、ヴィーガンドーナツはLAの店舗からの「逆輸入」ではじまったんです。
2015年、原宿に
GOOD TOWN DOUGHNUTS @good_town_doughnutsをオープンして、2017年末にカリフォルニアのコスタメサで海外店舗、
GOOD TOWN DOUGHNUTS USA @goodtowndoughnutsusaを出すことになりました。
たまたまその店舗の隣のお店が、ヴィーガンレストランだったのですが、
帰りにうちに寄ってくださる方々から「ヴィーガンはないの?」と聞かれるようになって。
お客様の要望があるなら、作ってみよう!と始まりました。
アメリカだと、色んなレベルのヴィーガンの方がいるんですよね。
思いっきり毎食ヴィーガンの方もいらっしゃれば、週に1日ヴィーガンというフレキシタリアンの食生活の方もいらっしゃったり。アメリカでは、ヴィーガンという選択肢があるのは、ごく当たり前のことでした。
あと、元々焼き菓子やパンは、小麦がベースなので、ヴィーガンにしやすいんです。
今までNYなどでヴィーガンドーナツを食べたことがあるのですが、パサついていたりして、あまりおいしいと感じられなくて。
「絶対おいしい」が最低条件と思いながらこの仕事をしているので、ヴィーガンだからちょっとくらいおいしくなくてもいいっていうのは、僕たちの選択肢にないんです。
風味を豊かにしたり、食感をよくするために使用される卵や乳は、うまく代用品を探しながら作って、すごくおいしくできたので、東京でも販売を開始することにしました。
ー東京でヴィーガンドーナツを販売しはじめてからの反響はいかがですか?
車田:
販売をはじめた当初は、「ヴィーガンってなんですか?」という質問をたくさんいただきましたね。
いまはヴィーガンについてSNSで発信するヒトや、ヴィーガンフードを提供しているお店が増えてきていることもあって、認知度があがってきて、すんなり受け入れてもらえるようになってきました。
ヴィーガンドーナツを求めてご来店いただくことや、予約が入ることもあって、嬉しいですね。
何度もご来店いただく方もいらっしゃいます。
僕も別にヴィーガンではないですし、思いっきり肉も魚も食べるけれど、宗教上や健康を気にする方も含めて、幅広いチョイスができるのはいいことだなと思うので、これからも続けていきたいです。
普段は海外からのお客さまも多いので、そういう方々にも楽しんでもらえたらと思っています。
さまざまな経験をしてきたからこそ、それを活かして役立ちたい
ー新型コロナウイルスが落ち着いて、また海外からの観光客も増えてくると良いですよね。
今は飲食業界も大変な時期かと思いますが、今後車田さんが挑戦したいことはありますか?
車田:
20代前半に自分で店をはじめて、もうすぐ20年になるんですけども、色んな苦労を経験したり、出会いがあったり、助けてもらったり、様々な経験があって、今があるんだなと改めて感じています。
仕事をしていく中で、色んな方からお声がけいただいてプロデュースさせていただいたり、沢山の方に喜んでいただける機会も増えているので、これからも継続してやっていきたいですね。
あと個人的にやってみたいと思っているのは、飲食業界の方や、今後この業界でチャレンジしたい方とつながりを持って助け合えるような仕組みづくり。
例えば、これから飲食業にチャレンジしたいと思っている若者や、いまコロナの現状で僕と同じように悩んでいる方と繋がって、情報交換しあったり。
コロナで動き出せないことも沢山ありますが、逆に、いまは落ち着いて準備できる絶好のチャンスでもあると思います。
今まで色んな経験をしてきたので、自分が誰かの役に立てることがあれば、ぜひそういう活動もしていきたいです。
おわりに

メニュー開発のみならず、メニュー開発、店舗デザイン、プロデュースなど幅広く活躍されている車田さん。
ご多忙になられても、自ら食材を探したり、生産者さんとやりとりをされている姿勢に、お店や素材へのこだわりを感じました。
また生産者さんのことをお話されているときの素敵な笑顔が印象的でした。
小林農園さんは実際にお店に足を運んでくださったこともあるそうで、お互いへの信頼や、リスペクトの気持ちがあるからこそ、築ける関係性なのだと思いました。
ちなみに記事でご紹介しました、大人気のヴィーガンドーナツは、日によって種類や数が異なるそうので、どうしても食べたい!という方には、お電話でのご予約がおすすめです。
知らずに食べたらヴィーガンとは気付かないほど、もちっとした食感が楽しめるおいしいドーナツ。
ヴィーガンの方も、そうでない方もぜひお店に足を運んでみてくださいね!
車田 篤(くるまた あつし)
LDFS/GUIDING LIGHT 代表取締役
21歳で上京し様々な飲食店で経験を積む。
24歳の時に独立開業し現在は東京・原宿の「THE GREAT BURGER」を核に東京を代表するアメリカン業態の飲食店など様々な飲食店のオーナーシェフ。
メニュー開発はもちろん店舗デザイン、インテリア、グラフィックデザイン、撮影など全てを自ら手がけている。
ライター 小池彩乃
学生時代にニュージーランド、ノルウェーでの留学を経験。サステイナブルに興味を持つ。早稲田大学卒業後、外資系通販企業にてEC企画・マーケティングを経験。いまは株式会社アイクリエイトにてPR、SNS運営、ライター業務などを担当している。